受験生の私が経験した不思議体験
遠い昔、私が大学受験生だった夏休みのある日のことです。
私は朝4時に起床し、5時から勉強を開始しました。
その日はめずらしく気分も体調もよく、とても高い集中力で勉強に取り組めていました。
どういうわけか勉強していることが心地よく、夏の海沿いをオープンカーでドライブしているような感覚だったことを覚えています。
しばらくして強い尿意と空腹を覚えて手を止めました。
そして自分の机の上の紙の量を見てびっくりしたのです。
その頃の私はノートは使わず、父が会社から持ってきてくれる印刷をし損じた裏紙に問題をガンガン解いていたのですが、目の前にある紙の量が半端ではないのです。
「いつの間にこんなに解いたんだ?」
よく考えると勉強していた間の記憶が曖昧です。
顔を上げて時計を見るともうすぐ6時。
「あれ?勉強開始から1時間? 時計止まっているのかな?」
いくら何でも3時間くらいは経っているはずです。
私はそう思いながら立ち上がろうとしましたが、椅子からずり落ちてしまいました。
足と腰があまりに痛くてすぐには伸ばせないのです。
何とか立ち上がった私は首を傾げながリビングに行き、時計を確認しました。
そしてようやく事の次第を理解したのです。
朝の6時ではなく夕方の6時だったのです。
私は12時間以上も水も食事も取らず、トイレにもいかず、ノンストップで勉強し続けたいたのでした。
今考えると、あれがいわゆるフロー状態、あるいはゾーンに入っていたということなのでしょう。
高度な集中状態に入るフロー状態(ゾーン)は今やアニメやスポーツの世界ではお馴染みですね。
フローは心理学者ミハイ・チクセントミハイによって提唱されました。
フローとは
フロー状態に入ると通常の何倍ものパフォーマンスで行動することが可能になるようです。
フローには共通する8つの要素があります。
明確な目標
最終ゴールもさることながら、一瞬一瞬の行動に対する明確な目標が必要です。
なんのためにやっているのか分からない行動ではフロー状態には入れません。
行動への深い集中
いまの行動に深くはまり込む必要があります。
あれも気になる、これも気になる、という状態ではなく「いま、ここ」にだけ集中しなければなりません。
自意識の喪失
フロー中は「我を忘れる」状態になります。
対象である「すべき行動」と主体である「している私」の境が曖昧になり一体化してしまいます。
故に主体と対象の間に雑念が入る余地がなく、恐怖や不安、さまざまな欲求から解放されます。
時間感覚の変容
フロー中とフロー後で2つの矛盾した時間感覚を経験します。
フロー中は時間が引き延ばされている感覚を経験します。ボールが止まって見える、というスポーツ選手の体験がそれです。
またフロー後に行動を振り返ってみると時間が非常に短かったように感じます。
迅速なフィードバック
一つ一つの行動に対するフィードバックの速さは重要です。
ボールの握り方をこう変えたらこう曲がった、押さえるフレットの位置をこれだけずらしたら音程がこれだけ変わった、などのように迅速なフィードバックに対して修正を繰り返すことでより高いレベルまで能力を引き出すことができます。
達成できる適切な難易度
フロー状態に入るには、達成可能な課題に取り組んでいる必要があります。
簡単すぎず難しすぎない。行動する人に合った課題でなければなりません。
状況を自分でコントロールしている感覚
いまの状況を自分でしっかりコントロールできているという感覚がなければなりません。
やらされている行動ではフロー状態には入れません。
状況や行動を高いレベルで制御し、また制御できているという感覚を持つことが大切です。
勉強への集中はフロー状態を生み出しやすいのか?
こうして見てみると、やはりあの時の私はフロー状態だったに違いありません。
上に挙げた要件は全て満たしていました。
しかしながらあの頃の私は様々な理由から「大学に落ちたら自分には何も残らない。落ちたらダメ人間だ。」という強迫観念に囚われており、少々心が壊れていました。
だからあれはピュアなフローではなく、フローの変異種、ブラックフロー(?) だったのかもしれません。
いずれにしても本当に不思議な体験でした。
残念なことにあれ以来、苦労はしてもフローはないです。
私は理想的に集中した勉強の状態はフローあるいはゾーンに入る可能性が高いのでは?と思っています。
そして実は私と同じような体験をした人は少なからずおられるのではないかとも思っています。
それにしてもフローあるいはゾーンとは一体何なのでしょうか?
自分を追い込んで追い込んでとことんまで追い込んだ先にある究極の状態なのか。
火事場の馬鹿力的なもので、緊急時に発動するよう人間に備わった能力なのか。
はたまた脳の誤動作なのか
人間というのはどこまでも興味が尽きない生き物です。
最後までお読みくださりありがとうございました。