夕方、妻から携帯に着信があった。
いつもはメールなのに「珍しいな」と思いながら出てみると、
緊迫した妻の声。
保育園の帰り道、抱っこ紐の中の娘の体が急に硬直したかと思うと
白目を剥いて突然痙攣を始めたとのこと。
異変に気づいた妻は、すぐにそこから一番近い病院へ走ったのだった。
話しを聞くうちに電話を持つ手が震え始め、顔から血が引いていくのが分かった。
次の授業の生徒さんに電話をかけて事情を話し、病院へ直行した。
病院へ着くと、看護師さんに奥の個室へ案内された。
カーテンをあけると強ばった表情の息子と妻、
ベッドには娘が寝ていた。私が覗き込んでも目の焦点が定まっていない。
少しの間、言葉が出なかった。
混んでいて診察はまだだったが、
看護師さんの話では、熱性痙攣で脳に異常があるわけではないらしい。
そうは聞いても私の固まったからだの緊張は解けない。
息子を見ると真っ白な顔をしている。
妻の話では、病院まで走りながら妹の名を叫び、泣いていたのだそうだ。
私は息子を呼び寄せ膝に乗せて抱きしめた。
少しして診察室に呼ばれ医者の診断を聞いた。
テンションが高すぎるかな?と思われる感じでまくし立てるので、
いまひとつ分かりにくかったが、要するに痙攣の原因は熱によるものだということ。
そしてインフルの疑いがあるということだった。
季節性は予防接種済みなので、インフルだとすると新型だ。
ただ、早い時期だったので検査結果は陰性。
「はっきりしてからでは遅いので、タミフルを飲んでおきましょう」
とタミフルを処方された。
その後、発作が起きることもなく、今朝は熱もすっかり下がっていた。
それにしても新型かどうかはっきしりないと、どう対応していいのか分からない。
今、妻は再検査をしてもらうために掛かりつけの小児科に行っている。
「このまま冷たくなってしまうのではないか、と怖かった。」
昨夜子どもたちが寝静まった後、妻が言っていた。
発作が起こったときは抱っこ紐の中。
妻は娘の痙攣を体で直接感じたのだ。
それはショックだったろう。
私たちにとって子どもたちは全てなのだ。
彼らになにかあったら私たちは生きていけないだろう。
ん?
いま妻から電話があった。
なに?ただの風邪?インフルじゃないの?あのヤブ医者!
タミフル飲ませちゃったじゃないか!
いいよ。いいよ。
何事もなかったのだから。