最近、
「学ぶことが楽しい。」
と言ってくれるようになった高3生の生徒。
彼との最初の出会いはなかなか印象的だった。
授業の初日。
彼は開始とともに缶コーラの栓を抜き、ハイソフトを口に放り込んだ。
コーラのカフェインが脳を覚醒。
ハイソフトを噛むという行為が脳を刺激。
そういうこともあるだろう。
でも、何事もシフトチェンジが必要だと思う私はやめるように提案した。
「え?だめなんですか?」
という彼に理由を説明しつつやめてもらった。
しかし、次の週はコーラとハイソフトではない別なものを口にし始めた。
「コーラとハイソフトがだめ、ということではなくて…」
そんなやりとりが何回かあった。
またある時は、私が到着してもゲームをやめない。
何度促しても「もう少しですから。」とやめない。
これもやめてもらうのに何週か要した。
しかしこんなことは枝葉末節。
彼は私の出した宿題はほぼやらない生徒だった。
進路も「どこでもいいから引っ掛かるところ」というのだ。
学ぶ気は全くない。
中三の夏休みは26日間一歩も外出せず、
起きてから寝るまでゲームをやり続けたという強者。
そんな彼がどういうわけか私の授業を嫌がらず楽しそうに受け続けてくれた。
それが本当に不思議だった。
「お前はいったいどんな授業をしたんだ?」とお思いになるだろうか。
強いて語るほどスペシャルな授業をしたわけではない。
彼は学ぶ気が全くないので授業にならない。
そこで私は、
世の中のこと、科学のこと、本のこと、身体のこと、心理学のこと、哲学のこと、
スポーツのこと、映画のこと、音楽のこと、家族のこと、…
そして自分のダメダメだった子どもの頃の話を聞かせた。
子ども時代の失敗談や間抜けぶりを語ったら2年でも3年でも持つほど話題は豊富なのだ。
そしていつも二人で爆笑していた。
(もちろん英数国社理もやりました。念のため追記しておきます。)
2年後、なんとか高校進学を果たしたことに私は大いに胸を撫で下ろした。
その頃からだったと思う。彼が少しずつ変わり始めたのは。
まず、英語と国語の基礎学習の宿題をやってくれるようになったのだ。
それから私が出す課題図書を読み、課題映画を観るようになった。
いま彼は自分の定めた大きな目標に向かって一生懸命がんばっている。
だらしない態度でハイソフトを頬張っていた彼はもうそこにはいない。
毎日新聞を読んでいるようで、大抵の話題は通じる。
当時の話をすると
「あの頃の俺はなんだったんでしょうね。笑」
という。
顔つきも変わった。
なんと素敵な時間を共有させてもらったことだろう。
結局いつも手渡すよりもらう方が多いのだ。私の仕事は。